尚絅学院大学

人文社会学類 お知らせ

SDGsコラム 目標4「教育」すべての人々への、包摂的かつ公正な質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する。

2022/07/18

歴史的建築物の保存活用から学ぶ環境教育(馬場たまき)

歴史的な建築物を生かす環境教育とは?

写真1 児童の絵がはめ込まれた格子戸

写真1 児童の絵がはめ込まれた格子戸

日本に残る味わい深い古民家や蔵造りの歴史的な建築物の多くは、担い手不足や維持費用などの問題に直面し存続が難しい状況にあります。しかし、歴史的な建物は環境教育の視点からとらえた場合、地域文化を継承する「地域資源」としての価値が高いことから、保存し活用しながら継承する視点が大変重要だと考えます。SDGs4.7では「持続可能な開発のための教育及び持続可能なライフスタイル」や「持続可能な開発への貢献の理解の教育」を目標としており、歴史的建築物の保存活用の取り組みは、そうした教育を行う場としても期待ができます。私の授業や演習で関わった事例から、歴史的建築物の保存活用がもたらす教育効果について考えてみました。

歴史的な建築物のデザイン学習

写真2 ふすまの張り紙を観察する様子

写真2 ふすまの張り紙を観察する様子

仙台市では杜の都景観重要建造物等として8件の建築物を指定しています。そのうち最も古い店蔵を持つ旧丸木商店は築後240年が経過しました。2011年の東日本大震災により建物が損傷し傾きましたが、NPOの支援や多くの励ましの声に後押しされ大規模修繕が行われました。その際、アルミ製のシャッター部分を昔ながらの格子戸に戻す変更が加えられることになり、格子戸にはめ込む絵のデザインを地元の小学4年生が総合学習で取り組むことになりました。はじめの現地調査では、旧丸木商店の店蔵を探検し、蔵の壁は火災時に商品を守る目的で分厚くなっていることや、建具や階段には自然塗料の柿渋が使われていることなどを学びました。また、昔ながらの床掃除として、濡らした紙を小さくちぎり床や畳に撒いた後に箒で掃く方法を教わりました。ひんやりした蔵の空間は夏向きで、冬は暖房設備が欠かせないことも身をもって体験することができました。このデザイン学習には、補助として大学生も参加し、学校、NPO、大学の協働で授業が展開されました。完成した格子戸には、児童の個性的な絵がはめ込まれ、道行く人の目を楽しませています(写真1)。この学習の効果は、目に見えるものより見えないものの方が大きいと言えます。児童達は、デザインの楽しさと同時にまちに参画する責任や修繕して大切に使うことが環境保全へつながる側面を学ぶ体験となりました(写真2)。また、建物の継承に関わった大人や学生も、建物を保全する意義やリデザインによる効果を考える機会となりました。

蔵の修繕・再生活動への参加

写真3 畳を運ぶ作業

写真3 畳を運ぶ作業

もう1つの事例は、蔵の町並みで知られる村田町の取り組みです。村田町は2014年に宮城県初の重要伝統的建造物群保存地区に選定されました。地区内には、表通りに面した店蔵を閉じ、ひっそり佇む家も少なくありません。そのうちの1軒が、長らく閉じていた店蔵と母屋の保存活用を決め、村田町のまちづくり会社が仲介役に入り、カフェやショップの場所として修繕することになりました。まずは、屋敷内の荷物整理と大掃除が必要となり、その手伝いに学生達が参加しました(写真3,4)。作業を通して、めずらしい床板の貼り方や床の間飾り、陶器で出来た調理器具について話をお聞きし、当時の生活文化を知る経験となりました。通常は専門業者に委託して進める作業なのですが、学生達が担うことで古いものを生かす環境教育の機会創出へとつなげることができました。また、所有者の方にとっても、学生や地域の方々と交流する中で店蔵の価値を再認識するとともに将来の活用イメージを具体化する良い機会となったようです。

写真4 2階の布団を落とす作業

写真4 2階の布団を落とす作業

2つの事例から、歴史的な建築物の保存には、費用や労力の他にその建物の価値を共有し、保存を応援する地域の人々の存在が重要であることに気づくことができます。

歴史的な建築物は年々減少傾向にありますが、今後も地域の歴史的な建築物の価値を大学、地域、NPO、自治体のネットワークの中で共有し、持続可能な保存活用に向けた取り組みを支援し参加していきたいと考えています。