【人文社会学類】正田ゼミ体験記(2)――モネの光
2026/03/30
人文社会学類の正田ゼミでは、美術作品を見ることを通して、人間とは何かを考えています。芸術世界の真相(深層)を探究し、哲学・思想・宗教的な意味合いにまで考察を進めています。
角田凜衣さんは卒業論文でクロード・モネ(Claude Monet, 1840-1926)を取り上げました。モネは印象派を代表する画家ですが、彼が絵画で表わした光はどのようなものだったのでしょうか。また近現代の芸術世界に与えたインパクトはどのような広がりを見せたのでしょうか。
モネ《舟遊び》
角田さんは国立西洋美術館で《舟遊び》を鑑賞して以来、「モネ展」はもちろんのこと、関連する様々な展覧会に足繁く通いました。光の扱い方をめぐって、作品同士を比較し、その特徴を言葉によって流麗かつ的確に描写しました。そしてモネの光の捉え方が変化していく過程を、作品分析を通して論じました。
論究の射程はアメリカ印象派や現代美術、日本の近代洋画にまで及び、チャイルド・ハッサム(Childe Hassam, 1859-1935)やマーク・ロスコ(Mark Rothko, 1903-70)、ジェームズ・タレル(James Turrell, 1943-)、黒田清輝(1866-1924)、久米桂一郎(1866-1934)などを扱いました。モネの光が越境的に広がり、空間的かつ没入的な芸術へと転化していく。こうした現象の本質を捉え、36,000字の質量ともに充実した論文に仕上げました。
角田さんのゼミ体験記を是非お読み下さい! (本学准教授・正田倫顕)
モネ《睡蓮の池》
人文社会学類 角田 凜衣
(1)正田ゼミを選んだ理由
私は、大学4年間で専門的な資格を取得したいと思い、正田先生が担当する学芸員課程を履修していました。それまで、博物館や美術館をあまり訪れたことがなかったのですが、これを機に、上野の国立西洋美術館へ足を運ぶようになりました。そしてクロード・モネの《舟遊び》という作品を見て、心をとらえられました。水面に映る光のきらめきや空気の揺らぎの表現、色使いが魅力的で、モネや印象派に興味をもち始めました。
2年生の時には、正田先生の「芸術論」の講義を履修し、作品に対する向き合い方や画家の内面的な意図を言語化するプロセスに強く惹かれました。自分の感性だけでなく、学術的な裏付けをもって芸術を考察する力を養いたいと考えるようになりました。こうしたことがきっかけとなり、正田ゼミを選びました。
ゼミの様子1
(2)ゼミ活動の内容
ゼミでは、文献講読および発表を通じて専門的理解を深めていきました。正田先生の指導のもと学んだのは、作品を単に「綺麗だ」と感じるだけでなく、当時の社会情勢や画家の考え、技法の変化といった客観的な事実に基づいて読み解く姿勢です。最初は調べた情報を並べるだけで、自分の意見をうまく示せないという壁にぶつかりました。しかし、先生からの鋭い指摘やほかのゼミ生の発表を聞く中で、批判的思考をもって説明する大切さを実感しました。
結果として、自分一人の研究では得られないような新鮮な気づきがもたらされ、より深い考察へとつなげることができました。また、各ゼミ生が研究対象としている画家についても、文献講読や映像資料を通して共有する機会が設けられており、個々の研究内容を相互に学ぶことができました。美術史全体の大きな潮流の中に、個々の作品がどのように位置づけられているかを俯瞰的に捉える視座を養うことができました。
(3)卒業論文の内容
ゼミでの学びの集大成として、私はクロード・モネの《睡蓮》連作における水面表現を題材に卒業論文を執筆しました。具体的には、水面という主題を通して展開された光の表現に着目し、それが単なる自然描写にとどまらず、鑑賞者の視覚体験そのものを再構成する空間的表現へと発展していく過程について考察しました。
モネは初期から中期にかけて、水面に映る光の反射や揺らぎを通して、時間や気象によって変化する視覚現象を捉えようとしました。さらに連作の制作を経て、光を対象に付随するものではなく、空間全体を満たすものとして捉える表現へと展開していきます。
セーヌ川連作、ロンドン連作、《睡蓮》連作といった複数の作品群を比較し、モネが連作表現を通して、その瞬間その瞬間でうつろう光そのものを捉え、視覚体験として構成していった過程を明らかにしました。
また、晩年の大装飾画における《睡蓮》を、単に花を描く絵画ではなく、光が空間を満たす状態を成立させるための作品として位置づけました。ここでは、水面は画面全体を覆う場となり、上下や奥行きの区別が失われ、鑑賞者を包み込む没入的な空間が創出されています。没後におけるモネの表現技法や没入空間の継承にも着目することで、モネがもたらした空間的・体験的な表現が20世紀以降の美術へと展開していったことを明らかにしました。
この研究を通して、作品を感覚的に鑑賞するだけでなく、制作背景や時代状況、表現の変化を根拠に基づいて分析する力を身につけることができました。また、同じ作品でも多様な解釈が可能であることを学び、自分なりの視点から問いを立てて考察することの重要性を実感しました。
ゼミの様子2
(4)研究活動
卒業研究を進める中では、正田先生から適切な参考図書を何冊も紹介して頂き、目が開かれるような体験をしました。机に向かって文献を読む時間を大切にしつつ、実際に美術館へ足を運び、本物の作品と向き合うようにも努めました。
日本全国の美術館をできるだけ訪ね、モネや印象派に限らず、日本の美術、現代アートを鑑賞しました。様々な展示空間を体験することで、モネの軌跡や没入体験など、新しい気づきを得ることができました。卒業論文でも実際に自分の目で見た作品を取り上げ、比較検討しながら書き進めました。特に、時間帯や季節によって変化する「光」が、キャンバスの上でどのように表現されているのか。細部まで観察することで、考察を深めることができました。
なかなか考えがまとまらず悩んだ時期もありましたが、作品の前に立ち、自分の目で確かめた発見をヒントにすることで、一歩ずつ研究を形にすることができました。なによりも、県外へ足を伸ばして作品を鑑賞すること自体がとても楽しい経験でした。たとえば、愛知の豊田市美術館を訪れた際には、名古屋を満喫することもできました。美味しいご飯や水族館でシャチをみるなど、見聞を広めながら研究に取り組めたこともいい思い出です。楽しむ姿勢を保てたことが、最後まで走り抜けた一番の理由だと思います。
(5)おわりに
正田ゼミでの二年間を通して、美術作品の魅力を再発見できました。好きな画家や作品について学び、自分の感動を言語化する力が身についたことで、美術鑑賞がより楽しくなったと感じています。一つのテーマに向き合い続ける中で、答えを探すこと以上に、自分なりに解釈し、多角的視点から考察する力が重要であることを学び、物事に対して誠実に向き合う姿勢を培う契機となりました。
今後は、正田ゼミでの学びを土台として、どのような分野においても物事を構造的に捉え、安易な結論に流されることなく、自ら問いを立て続ける姿勢を大切にしていきたいと考えています。
正田先生の丁寧なご指導に心から感謝します。ありがとうございました!
ゼミの様子3