心理学専攻 お知らせ

報酬によって生じやすくした行動は報酬を与えることをやめるとどうなるか?[心理学専攻 教授 田島裕之]

2015/08/11

 私たちは、ある行動をした直後に報酬(自分にとっての良いこと)が生じるということを経験すると、その行動をよくするようになります。例えば、ほめられることが報酬となっている子どもの場合、その子どもは、家事を手伝った直後にほめられるということを経験するとよく家事を手伝うようになります。この一連のプロセスのことを専門用語で「強化」と呼びます。また、報酬のことを、その直前に生じた行動の自発確率を高める働きを持っている出来事という意味で「強化子」と呼びます。



 強化という原理は、ある個人の望ましい行動の自発確率を高めるために応用することができます。その人にとっての報酬(強化子)となっている出来事を見つけ出した後、その人が望ましい行動をしたらすぐにその報酬を与えるという介入を行えばよいのです。例えば、自分で使った物をあまり片づけない子どもをよく片づけるようにしたい場合、その子どもにとってほめられることが報酬となっていれば、その子どもが自分で使った物を片づけたらすぐにほめるという介入を行えばよいのです。

 では、ある個人に対して強化を応用した介入を行った後、それをやめたら、介入によって自発確率が高まった行動はどうなってしまうのでしょうか。この問題に対して提出されている主な考えは、以下の3つです。

 1. 介入終了後、その人はその行動には報酬が伴わなくなったということを経験するため、
  その行動の自発確率はやがて介入前の水準に戻っていく。
 2. 介入によってその人はその行動をそれ自体が目的ではなく報酬獲得のための手段に過ぎ
  ないと考えるようになるため、その行動の自発確率は介入前の水準より低下してしまう。
 3. その行動が、元々自然に何らかの報酬が伴うものであれば、その人は介入によってその
  行動にその自然な報酬が伴うということを繰り返し経験するため、その行動の自発確率は
  介入終了後もその行動に自然に伴う報酬によって維持される。

 もし、(1)が正しいとすると、強化を応用した介入の効果は一時的なものに過ぎないということになってしまいます。また、(2)が正しいとすると、強化を応用した介入は逆効果であるということになってしまいます。どちらにしても、教育や指導などに報酬を用いることが躊躇われるでしょう。しかし、幸いなことに、介入終了後の行動の自発確率が介入前より低下してしまうという結果が得られた研究は非常に少なく、多くの研究では、介入終了後の行動の自発確率は介入前の水準に戻るか、もしくは長期間にわたって介入前より高い水準で維持されるという結果が得られています。これらの結果は(3)を支持しているようですが、行動が強化を応用した介入終了後も維持される条件の特定にはさらなる研究が必要でしょう。

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