尚絅学院大学

臨床心理相談室(ティクヴァ)からのお知らせ

4月 ティクバ便り

2022/04/11

「身近な動物、植物、乗り物などのミニチュアを置く中でこころが安定する不思議な世界」

 みなさん、こんにちは。臨床心理相談室の三好です。ティクバ便りの執筆は今回が2回目となります。みなさん、毎日をどんなふうに過ごしておられますか?

 新型コロナウィルスの第7波も叫ばれるようになり、コロナ感染人数も少し増えてきています。ウクライナで戦争もまだ継続していて、多くの命が奪われています。命の尊さが叫ばれる中、寂しい限りです。そのような中、私たちは毎日楽しく、生きがいを持って幸せ感を日々生きていくことが求められています。いかに自分の好きなことをしながら人に迷惑をかけずに生きることが大事な時代になります。一緒に楽しみながら生きていきましょう。

 今回は僕が相談室でクライエントによって実施している箱庭療法について話します。

 ティクバの相談室でのカウンセリングで時に僕は、箱庭療法を展開することがあります。クライエントによって、自分の気持ちを言葉として表現するのが苦手だったり、何か心の中にもやもやした気持ちがあるけれど言葉にならず、言葉で悩みを表現しにくい方に箱庭療法を実施します。その方のイメージをミニチュア玩具で表現することが向いている人に箱庭療法を実施することで有効な心理的治療になることがあります。

 箱庭療法では、クライエントが、砂の入った箱の中に、人、動物、植物、建物、乗り物などのミニチュアを置き、自由に何かを表現したり、物語を創って遊んだりすることを通して行います。

 自分が気に入ったミニチュアを選ぶことが納得しないと置けないことがあります。自己決定しながら、その瞬間の気分で、自分の物語を作成します。まるでプロデューサーになって、自分の物語を好きなミニチュアを使って表現していきます。


 箱庭療法とは、心理療法の一技法です。歴史的には、1929年にロンドンの小児科医M.ローエンフェルトによって作られ、その後スイスのユング派アナリストであるD.カルフによりユング心理学の考えを取り入れ発展しました。日本では1965年に河合隼雄によって導入され、現在は病院や学校や相談機関など様々な分野で使われています。

 箱庭療法では、砂に触れるだけでも子供の頃の砂遊びを思い出して童心に返ったり、ミニチュア玩具を見ているだけでも想像力が湧いてきたりと、イメージが広がっていきます。

 イメージは一つの意味に固定されず多様性があり、言葉にならないもやもやした気持ちと似ているものが1つの作品として表現できるようになります。そのためにセラピストが、砂に置いたミニチュア玩具がそのクライエントにどのような意味があるのかをよく聞きます。

 クライエントの置くミニチュア玩具から、そのクライエントのイメージの世界を探求することになります。最終的に1つの作品が出来上がり、その作品をクライエント自身が見て感じて味わうことができます。そのクライエントのイメージの世界にどれだけセラピストが近づけていけるか、セラピストの感性が必要になってきます。

 そのためセラピストは日常生活で自然をゆっくり堪能し、或いは美術館や博物館で作品から見る感性を楽しむ機会を多く持つことが必要かもしれません。映画や小説もセラピストの感性を高めることに繋がると思います。


 箱庭療法は、カウンセリングルームという守られた空間で、さらに箱の中に作品を作ってもらいます。この箱庭の枠も一つの守りとなります。箱庭を作る行為をセラピストが見守るという関係性もクライエントの安心感となり、何重にも守られた空間で、クライエントは安心して自由に自己表現ができます。この自己表現が治療効果の1つになります。

 自己表現とは、自身の内にあるものを別の形にして外部化するという意味があり、こころの内に秘めた何かを作品に表現することを意味します。こころには大きく分けると意識と無意識の領域があります。意識とは自分の体験を認識できていることでもあり、ある意味自身をコントロールしているのは意識であるため、社会生活においてはほとんど意識を使って生きています。

 その中で色々な葛藤や感情が湧いてきます。その都度しっかり向き合っていけると意識の方におさめることができますが、向き合いきれず無意識に追いやってしまう事があります。辛い体験や強烈な感情ほど無意識の深い部分に追いやってしまうかもしれません。生まれてからすべてのことに折り合いをつけて生きている人はいないと思います。

 人は何かしらの葛藤や矛盾を抱えて生きています。心の中に何か引っかかるけど言葉にならない場合や、頭ではこうした方がいいのは分かっているけど動けない場合など、自分でも何が原因でそうさせているのか分からない時ってありますよね。それは先ほど追いやってしまった感情や感覚が無意識にあり、意識化できずに症状として表れているとも言えます。

 無意識に押しやって分離したものと向き合うことで統合がなされ人は成長していきます。対話を使ってこれを行うことも可能ですが、無意識にあるものを言語化するのは難しく、イメージを通して扱った方が表現しやすくなります。無意識に押しやったものをイメージで箱庭に表現することで、無意識化にあるものを意識化することができ、完成した箱庭は自己表現の1つになります。このような世界を相談室での箱庭療法を展開しています。 

 最後に相談室の箱庭の写真を載せておきます。(三好 敏之)