尚絅学院大学

尚研|Show KEN

尚研Vol.4 アメリカ文学に読む物語の持つ力:総合人間科学系人文部門 准教授 中山 悟視

宮城県出身。東北学院大学(文学部英文学科)、東北学院大学大学院を経て、3年間、宮城県内の大学で講師として勤務。

その後、福島県いわき市の高等専門学校で英語教員として勤務し、クラス担任やラグビー部顧問も受け持つ。

キャリアアップを目指し、その後、広島県呉市の海上保安大学校で英語教官として勤務経験を積み、2015年より尚絅学院大学で准教授として勤務。

日本アメリカ文学会、マーク・トウェイン協会、エコクリティシズム研究学会、The Kurt Vonnegut Society所属。

研究テーマ

  1. カート・ヴォネガット作品を中心に現代アメリカ文学・文化について
  2. 19世紀以降のアメリカ社会の遷り変わりについて

今後取り組みたいテーマ,興味など

  1. 小説・創作といった物語全般について
  2. 日米のお笑いについて

スポーツ少年が、文学青年になるまで

アメリカ文学の研究者は少年時代、スポーツ少年だった。小学生の頃から、剣道を中心に体を動かすことが大好き。いわゆる「本の虫」ではなく、テレビでプロ野球やオリンピックを見ては、活躍する助っ人外国人、世界新記録を出すアメリカ人選手に憧れる日々だった。海外、特にアメリカへの興味は抱き続けたが、当時の目標は「剣道部の顧問」になること。大学では文学部英文学科に所属し、英語の先生になるべく教職過程を履修した。しかし英語と英語文化を勉強するうちに、もっと学びたいという思いがふくらみ、進学を検討。大学院で求められる研究テーマを定めようと、図書館に足を運んだ。「何かテーマになるものを探さなきゃと、子どもの頃からほとんど通ったことのない図書館に行った時でした。もともとテレビっ子で『笑い』に興味があったので、『ブラック・ユーモア』という項目で検索したら、『カート・ヴォネガット』という作家を見つけたんです。」

カート・ヴォネガット(1992年~2007年)は、現代アメリカ文学を代表する作家の一人。小説家、エッセイストとして、皮肉や愛情を込めたユーモラスな文体で人気を博し、日本にも熱心なファンを多く持つ。中山氏はヴォネガット作品との出会い以降、彼の本に限らず小説を読む時間が日に日に増え、小説の面白さ、アメリカ文学の魅力に引き込まれていったという。そして大学院に進学。ヴォネガットをはじめ、アメリカ文学を研究することとなった。

ヴォネガット作品から“物語の持つ力”を読む

アメリカ文学・アメリカ文化研究に惹かれた中山氏は、仙台市内の高校で講師として英語を教えながら、研究を深めるべく博士課程に進学。その後、仙台市内の大学、福島県いわき市の福島高専、広島県呉市の海上保安大学校、それぞれの地で英語教師として勤める間も、アメリカ文学にふれることはやめなかった。2008年にはオハイオ州立大学にて1年間の在外研究期間を過ごし、「そろそろ地元・仙台に戻ろうかな」という時、折良く尚絅学院大学の教員募集を知り、2015年から准教授として勤務するに至ったという。

現在は、カート・ヴォネガット作品を中心に、アメリカ文学・文化を研究。成果をまとめ、ヴォガネット作品にまつわる本も上梓している。「多くのアメリカの本を読むことで、文化の違い、時代背景の違い、多くの発見を得ます。例えばアメリカ社会を舞台にした本では、登場人物が発した言葉の意味、そこに込められた皮肉や愛情が、日本人には理解しにくい。だから想像力を働かせる。すると感じ方が変わってくる。特に、人種問題や性差の問題は、日本人にとってはなかなか芯を食わない問題ですが、アメリカのような国の文学では、そうした問題が、迫真性や信ぴょう性をもって描かれているんですよ。フィクションだとしても、それらを読んでいるうちに、現実の問題として捉える想像力を育ててくれる。こういうことが、物語の持つ力、アメリカ文学の持つ力だと感じています」

学生に教える「比較文化論」講義やゼミでも、映画やテレビなどの媒体を通してアメリカ文化を伝えている。日本人の生活の中にも、諸外国の文化が根づいていること、そしてそのこと自体に気づく大切さを教えるためだ。「日本人として、異文化としてのアメリカ文学・文化を研究してきた自分だからこそ伝えられるものがあると思っています」

「初めて知ることの楽しさ」を大切に

中山氏は多くの学会・編集委員に所属し、多彩な活動を行う研究者でもある。特に、「日本アメリカ文学会」東北支部においては、2017年から事務局長を務めるなど、その活動はとても熱心だ。「仙台で生まれ、仙台の大学で学んで、東北の研究者の方々に育てていただいたという思いが強くあります。大学院に入ってから本をまともに読むようになった立場で、今こんなことをしていられるのは、日本アメリカ文学会の東北支部があったおかげ。研究発表をして、論文を投稿して、諸先輩方にお世話になった中で今の自分があると思っているので、特に東北支部には恩を返さなければならないと思っています。そして、自分の後進に対しても、自分がしてもらったようにしてあげたい。恩送りといいますか、育成も責務だと考えているんです。自分には身に余る仕事だと感じながら、全力で取り組んでいます」

自身が、根っからの文学少年ではなかったからこそ、さらにもともと英語が得意ではなかったからこそ、見えるもの、感じることがあると話す中山氏。今も、「初めて知ることの楽しさ」を重んじながら、研究にも教育にも情熱を燃やしている。「どれだけ物語を読んでも飽きないので、仕事が大変だと感じることはありませんが、世の中には物語がありすぎる。日々、世界中で新しい本が生まれ続けていくので、追いかけきれないんですよね。どれだけ時間があっても足りないこと。それだけがこの仕事の大変さかもしれません」

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