尚絅学院大学

尚研|Show KEN

尚研Vol.1 記憶の転換、地域への還元に:総合人間科学系 心理部門 准教授 池田和浩

宮崎県出身。茨城大学(心理相談コース)を経て、東北大学大学院で博士課程(文学)修了。

その後山形大学にて助教を勤め、2011年より尚絅学院大学総合人間科学部人間心理学科講師として勤務、後に准教授に就任。

日本心理学会、認知心理学会、東北心理学会、日本臨床発達心理士会、日本創造学会、Psychonomic Society所属。

研究テーマ

  1. 概括化した記憶を改善する転換的語り直しの認知基盤および心理行動的波及効果の解明
  2. 実践的“ほめ”モデルの構築およびトレーニングプログラムの提供

今後取り組みたいテーマ,興味など

  1. ほめことばと記憶の関係
  2. 記憶と希望感の関係

「認知心理学」の道、そして「記憶」研究者の道へ

池田氏と心理学との出会いは、唐突で、偶然に近しいものだった。大学進学の意思を抱いていなかった高校時代。先生から「卒業して働くのもいいが、せっかくだから推薦入試だけでも受けてみてはどうか。提携大学の心理学を学べるコースに推薦状を出してみるから」と勧められ、興味を抱いて受験に挑んでみたところ合格。「空と海と山しかない」という九州の実家を離れ、茨城大学での大学生活が始まったのだ。

しかし、在籍していたコースは、主に臨床家の育成が本分。学ぶうち、自分が深めたい分野ではないことを実感し始める。そんな中、心理学の中に「認知心理学」という領域があることを知り、「目撃者から記憶を正確に引き出すインタビュー手法(逆行検索法)」をテーマに卒論研究をスタート。断片的な分析結果から考察をまとめる過程が、「バラバラに散らばるピースを組み立て、1枚の未知なる絵画が完成していく感覚」に似ていると感じ、考察する面白さを初めて体感した。

認知心理学とは、「人間の心を情報処理システムと捉える立場から研究する学問、あるいは知覚、記憶、思考、言語、学習などの認知の働きを解明しようとする心理学(※)」のこと。池田氏は茨城大学から東北大学大学院に進むと、「正しい記憶を正確に引き出す」研究ではなく、「過去の辛い出来事の記憶を楽しい記憶に作り変えることができないか」に焦点を当て、研究者の道を歩み始めることとなる。

※日本認知心理学会ホームページより

ネガティブな記憶は、ポジティブに転換されるのか?

池田氏が研究を進めるメインテーマは、「概括化した記憶を改善する転換的語り直しの認知基盤および心理行動的波及効果の解明」。つまり、頭の中の嫌な記憶を語り直していくことで、良い記憶へと転換することができるのか、またそれは言動にも表れるものなのかを解明していくもの。

2009年の論文では「ネガティブな体験の肯定的な語り直しによる自伝的記憶の変容」と題し、大学生44名を対象とした実験と考察の結果を発表した。あえてストレスが多いであろう「大学受験生活」をテーマに、任意で参加者を募り、「ネガティブな経験」を何度も同じように語ってもらうチームと、「ポジティブな経験」として捉え直して語ってもらうチームに分け、1回目はありのままの原体験を、2・3回目はそれぞれのチームテーマに基づいて、4回目はまたありのままの原体験を語ってもらうという実験だった。結果は、想定通り、途中で意図的に「ポジティブな経験」として捉え直して語ってもらったチームの参加者は、最後にもう一度原体験を語った際、最初の原体験よりも明らかにポジティブなワードを多用したという。この論文は、日本心理学会の優秀論文証賞を受賞した。

さらに2015年、「何のために語り直すのか?:転換的語り直しの目的に関する言語分析」と題した論文を発表し、語りの目的の違いによって語り直しの方略が変化することを確認。2016年に発表した「独創性の高い作品制作に関する心理学的要因:個人特性を媒介したほめことばと共行動の効果の検討」では、作品制作時に与えられるほめ言葉と作品への満足感の関係を実験的に検討し、論文賞を受賞した。

辛い記憶を少しでも軽減し、地域に還元したい

記憶の語り直し研究を始めて約15年。池田氏は「これまでの研究成果をいかに社会に還元できる形にまとめつつ、新たな研究へ発展させるか」を、今後の課題に掲げている。尚絅学院大学のキャンパスを擁する名取市は、東日本大震災の津波被害により多くの犠牲者を出した土地でもある。「過去の辛い記憶から受ける精神的被害を少しでも軽減するために、認知心理学的な発想で構築された語り直しの手法を広めていくことは、私の研究者としての課題なのかもしれません。」

トラウマ、辛い経験をベースとして行うことが多い「語り直し」の研究。楽しく明るいテーマでの研究ができないかという発想からスタートしたのが、池田氏の第二の研究テーマ「実践的“ほめ”モデルの構築およびトレーニングプログラムの提供」である。具体的には、ほめ言葉を与える最適な状況や、ほめ言葉が本来の意味をなさない状況の探索など。家庭での育児や幼児教育のほか、社員育成、人間関係構築など、“ほめ”を必要とする場面が生涯・多岐にわたることから、年1回、研究成果を市民開放型ワークショップで公開している。「尚絅学院大学は、ゆっくりと、自由な研究・発想ができる環境。海外での学会発表の機会も、自分次第で多彩に得ることができます。ここでしか得られない学びや気づきを研究に活かしながら、地域のみなさんに研究成果を還元していきたいと強く思います。」