尚絅学院大学

国際交流エッセイ リレーエッセイ

【国際交流リレーエッセイ 第2回】海外で1年間働いて得た新しい私

2018/04/20

国際交流リレーエッセイ第2弾は、2016年度に本学の表現文化学科を卒業された永井 絢女さん。
カナダのバンクーバーでワーキングホリデーに挑戦しました。海外で頑張る卒業生の様子をお届けします。

 私のバンクーバーでのワーキングホリデーは、ホリデーとは無縁のワーキング&ワーキングの日々でした。
 1ヶ月間通った語学学校を卒業した後すぐに仕事を探し始め、JPcanadaという日本人向けの求人サイトを利用し、およそ2週間後にフルタイムの仕事を手にすることが出来ました。ここに住んでいました!

 私が働いたLadurée(ラデュレ)はマカロンで有名なお店で1862年にフランスで創業後、マカロン発祥のパティスリーとしてヨーロッパやアメリカに広がり、日本では銀座、新宿、横浜などに店舗を展開しています。私はバンクーバーのダウンタウンにあるHolt Renfrewというデパートの中のティーサロンでキッチンスタッフとして約1年間働きました。
 採用に際し、高校時代に取得した調理師免許と大学時代のケーキ屋さんでのアルバイト経験が履歴として役に立ちました。でも、面接してくれたオーナー兼シェフのKayo Bennettさんが「スキルよりも人間性を大事にしたい」と、その場でオファーを出してくれたので感激しました。

国際色豊かな職場で働く永井さん

国際色豊かな職場で働く永井さん

 職場にはフロントとキッチンを合わせて約20人のスタッフ。その中に日本人はKayoさんと私の2人だけでした。
 同僚はカナダ、フランス、ブラジル、インド、タイ、フィリピン、中国、韓国と多国籍です。ですから全てのコミュニケーションに日常会話以上の英語が必須でした。
 今でこそ全てが良い経験だったと言えますが、入った当初の私は自分に割り当てられた仕事をミスしないことに必死でした。なぜなら初めのうちは同僚達が話す早い英語の6割りしか理解出来なかったからです。
 また、同僚の一人が嫌味を言ってくるのがストレスでした。お互い分かり合えないなら歩み寄る必要も無いと決めて、彼女から距離を置くようになり、気付けば仕事に必要な最低限のコミュニケーションしか取らなくなっていました。
 しかしそんなある日、オーナーのKayoさんが私に声をかけてくれました。「仕事は覚えれば簡単なんだよ。でも実は一番簡単そうで一番難しいのはスタッフ同士のコミュニケーションなんだよね。仕事のことでも、プライベートでのことでも、分からないこととか聞いてほしいこととかあったら何でもいいからいつでもすぐに電話してきてね。」と言ってくれました。
 Kayoさんはオフでも休む暇が無いくらい忙しいにも関わらず、いつもスタッフの事を気にかけてくれました。リーダーとして指示を出すだけではなく、彼女自身が現場に立ってチームを引っ張っていくような頼もしいキャリアウーマンです。どんなに疲れていてもニコニコ笑いながら冗談を飛ばす彼女は、周囲から慕われ、強く、そして優しい人でした。辛くても1ヶ月、2ヶ月と、気づけば最後まで仕事を続けられたのは間違いなく彼女の存在があったからです。


 一通り仕事に慣れたと思えばまたスタッフが入れ替わり、私はいつの間にか新人スタッフに仕事を教える立場になっていました。
 英語を上手く話せる人を相手に教えるというプレッシャーに、"Sorry, my English is not good (英語が上手くなくてごめんね)" と言ったことがありました。しかし、その新人は"It doesn't matter because we speak English as a second language(気にしないよ。だって私達の母国語は英語じゃないんだから)"と笑顔で返してくれました。確かに、英語を間違えることなんて大したことじゃないんだと吹っ切れた私はそれ以降、相手の話を聞くだけではなく仕事以外の雑談や自分の事もよく話すようになりました。そしてキッチンの仕事をマスターした頃には、フロントスタッフが働くブティックの手伝いや、自分の作った料理をお客さんに提供するサーバーとしての仕事まで任せてもらえるようなりました。
 キッチン用のコックコートからフロント用のユニフォームを着るようになった後半から、スタッフとの関係も自分の仕事へのモチベーションも面白いくらいに変わっていくのが分かりました。始めは避けていた同僚との間にも次第に信頼関係が生まれ、最後には"I don't want you to leave. I want you to stay."(辞めないでここに残って欲しい)と、彼女が泣きながらハグしてくれたことはこの先もずっと忘れません。そして、退職する頃までには、当初早いと感じていた同僚の英語が95%理解出来るようになったのです。


 振り返ってみると、楽しさ、嬉しさ、辛さ、悲しさ、そして怒り、その全てを経験した感情の溢れ出る豊かな1年間になりました。同時に、環境が人を成長させると実感し、自分が変われば周囲が変わるということにも気付かされました。
 海外に興味を持ち、英語が好きという気持ちのままに突き進んだ私でしたが、ワーキングホリデー生活はこれまでの人生からは比べようもないほど充実した日々でした。そして、この経験が私のこれからの人生をきっと支え続けてくれると思っています。

 
2018年3月1日 カナダ・バンクーバーにて 永井絢女

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