人間心理学科 お知らせ

「アンパンマンは道徳的ではない!」〜高校生のみなさんへ [人間心理学科 箭内]

2016/03/29

 高校生のみなさん、こんにちは。人間心理学科で、哲学・倫理学を担当している箭内(やない)です。 
 
 人間心理学科を志望されているみなさんは、「心理学=psychology」という言葉の語源がどこにあったのかご存知ですか。
 英語のpsychologyは古代ギリシャ語のΨυχή(アルファベットではPsyche)に由来しています。そして、この「Ψυχή / Psyche(プシュケー)」という言葉は、そもそも「魂、命」を意味していました。つまり、心理学とは「魂」や「命」にかかわる学問だったのですね。驚きますね、こんなにも幅広い領域を含む言葉だったとは。 

 人間心理学科に入学してくる高校生のみなさんの多くは、はじめから哲学や倫理学を学ぼうとしているわけではありません。私の研究室を訪れる学生もまた、はじめからプラトンやカントなどの哲学や倫理学を学ぼうとしているわけではありません。ただ、彼らに見られるのは、何か一つのことを徹底して、そして懸命に考えようとすること-哲学しようとすること(フィロゾフィーレン)-、この姿勢です。それはあたかも「哲学するという病」に罹(かか)り、その処方箋を求める姿のように私には映ります。
 「人は哲学を学ぶことはできない、学び得るのは哲学をすることだけだ」と語ったのは、先にも挙げたカントその人でした。人は誰でも一度はこの病に罹るのかもしれませんね。

 哲学するということは、人生訓や箴言めいたことを述べることではありませんし、処世術を身につけることでもありません。奇を衒(てら)った非常識なことを言うことでもなければ、理屈を捏(こ)ねて周囲を煙に巻くことでもありません。まして駄々っ子のように無い物ねだりばかりしているようなものでもありません。
 どの時代にも、哲学するということの中心には、無垢で、それでいて頑(かたくな)な「問い」があります。一人ひとりの「プシュケー」の問いこそが、哲学なのです。
 
 最近、次のような言葉を目にしました。

「難解なもの、手に負えぬものこそお誂(あつら)え向きだと思っている学生の無邪気さのほうが……賢明なのである。」(テオドール・W・アドルノ『文学ノート1』三光長治訳)
問題をひしと感じそれと格闘するより先に、基礎から順にと分析法ばかり説く学問の権威主義。真の問題がどこにあるかを問う前に、解決の処方ばかり教える市場のマニュアル文化。いずれも問いに直面している人を問いから遠ざけてしまう。が、そんな学生の無邪気すらもう失せた? 
                     鷲田清一2016年1月5朝日新聞「折々のことば」一部改変
 
 ある意味哲学をするということは、自分の中にある「頑な問い」を拾い上げようとして不乱に「心(プシュケー)」を傾ける作業かもしれません。しかし、いったん答えが得られたとしても、その知識は「薬」ともなれば「毒」ともなります。そのため、昔から「パルマコン」と呼んできました。
 
  昨今、巷には多くの「病」が溢れ、その処方をあちらこちらに求めるのがあたかもブームのようになっています。またその謎解きをしてみせるような情報も手を伸ばせばすぐに届くところにあります。しかし残念ながら、哲学という病には、すぐさま答えが見つかる処方箋はありません。パルマコンが薬となるか毒となるかは、一人ひとりにかかっているのです。哲学という病の処方箋は、プシュケーを通して自分で見つけなければなりません。

  
 「アンパンマンは道徳的ではない!」-これは、この3月に卒業したある学生が選んだ卒業研究のテーマです。もしこの主張が正しいのなら、「アンパンマンは君さ」と言われても、それは困ったことになりますね。他にも次のようなテーマがありました。
 「現代音楽のスクリーモにさえ古代のミメーシス(模倣)概念は生きている!」-若者に人気のあるスクリーモという現代音楽にも、古代に始まった哲学の影響があるという主張でした。
 「ミュージカルは、他の芸術とは違って徹底的に差別化されるべきだ!」-ミュージカルを見て心踊るのは、そこに他の芸術とは決定的に異なるものがあるということを、この学生は述べました。
 これまでの卒業研究のテーマは下に挙げましたから、高校生のみなさんも一緒に考えてみてください。
 
 そしてこんなことをみなさんに伝えているうちに、学生達がそれぞれ処方箋を見つけるため、私の研究室を訪れる季節がもうじきこようとしています。
 

 桜の蕾もまだ堅い春のゆりが丘、研究室にて

 
*2014年度まで、学生の「プシュケー」が求めていたテーマには、次のようなものがありました。抜粋してみましょう。
 「教えてくれ。ランチを一人でトイレで食べて何が悪い!」
 「永久平和-カントが見たのは夢なのか?」
 「絵画を購入することの意味は<世界>を所有することだ!」
 「若者は、SNSでしか共感できない!」
 「仮面ライダーは現代社会の写し鏡だ!」
 「自己犠牲とは美化された欲望だ! でなければ、何だ?」
 「日本で安楽死が法制化されない原因はこれだ!」
 「事前に決定できる死など本当の死ではない!」
 「人間は必ずやペシミズム(厭世主義)とニヒリズム(虚無主義)に陥る!」
 「死にゆく者の声を聞け! 我々に語りかけているその意味を問え!」
 「遊びに遊ばれている子どもって、子どもなのか?」
 「ロボットに心があることを否定できるのか!そんな条件はどこにある?」
 「隣にいる者は友ではない、敵こそ本当の友だ! 友愛の本当の意味を君は知らない!」
 「死を恐れるな、畏れよ!」               


文責:人間心理学科教授 箭内 任

 

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