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「子どもから花を取り上げ、虫を奪ったのは誰」 〜放射能汚染禍の日本の子どもたちの姿を世界に伝える

2017/07/08

尚絅学院大学放射線研究班(代表:岩倉政城)とキリスト教保育連盟東北部会放射線・震災特別委員会(代表:武田健)の計6名がクロアチアのオパティアで開かれた世界幼児教育・保育機構(OMEP)の総会に参加して研究発表してこられましたので、その報告をしていただきました。

クロアチア国際会議で伝えてきました

参加メンバーは以下のとおりです。
 尚絅学院大学放射線研究班
  代 表:岩倉政城(前附属幼稚園園長)
      小松秀茂(附属幼稚園園長)
      齊藤 敬(環境構想学科准教授)
      山崎 裕(子ども学科准教授)
      Samuel Murchie(表現文化学科講師)
 キリスト教保育連盟東北部会放射線・震災特別委員会
  委員長:武田 健(第一光の子保育園園長)
      遠藤美保子(原町聖愛こども園園長)

みなさんへの質問
 自分の子どもに「土は触っちゃダメ」と、育てたらどんな子になるでしょう。
 保育士が園児に「虫に触っちゃダメ」と、禁止したらどんな子が育つでしょう。

クロアチア国際会議で伝えてきました
 6月23・24日、私たち一行6人はクロアチアのオパティアで開かれた世界幼児教育・保育機構(OMEP)の総会に一行6名で参加しました。なお、山崎先生は多忙で日程が合わず、私たちの出立を見送って下さいました。
 福島・宮城の保育園・幼稚園の子どもたちが放射能に汚染された環境で外に出ることも花に触れることも禁じられていたことを伝えるためです。
 クロアチアはアドリア海を挟んでイタリア半島の対岸(地図参照)にあり、会場になったオパティアは夜の9時にならないと日が沈みません。札幌よりも北にあるのですがTシャツ一枚でも汗ばむ街でした。


放射能汚染値の測定と除染の効果

 いよいよ発表です。初日は齊藤先生作成のポスターですが、大きなディスプレイに大会期間中表示されていて、聴衆に随時説明する方式です。
 汚染された放射能の減衰は遅々として進まず、園庭の土を剥いで新しい土に入れ替えると一挙に低下します。しかし廻りが除染されていないので回り込んでくる放射線で効果は期待通りにはいきません。
 さらに、園の外では山林や公園など未除染の場所が多く、事故を起こした東京電力福島第一核発電所の25km圏では6年経った今でも園児を散歩に連れ出せないままです。遠足の行き場にも事欠くありさまです。
 畑活動はおろか、園庭の果樹類も未だに食べていません。

左から、岩倉、齊藤、遠藤、武田、Sam、小松の6人衆

左から、岩倉、齊藤、遠藤、武田、Sam、小松の6人衆

なぜ「核」発電所と呼ぶのか

 ここで、“原子力”ではなくて“核”と呼んだのはなぜでしょう。
 今は人が住めなくなっている東京電力福島第一核発電所のある双葉町の国道横断看板を見てみましょう。
 「原子力は町に明るい未来をもたらす」と、国や企業は鳴り物入りで東京から遙か離れた福島に核発電所を次々と建てました。一旦事故が起これば制禦できない核発電のリスクを隠して宣伝するには英語(Nuclear power plant)の直訳「核発電所」は核兵器の「核」と同じ用語で使いにくかったのでしょうか。1950年代当時導入を図った政治家と企業が意識的に「核」を「原子力」と読み替えて建設していきました。
 さすがにこの看板は発電所事故後恥ずかしかったのでしょう。撤去されて今は跡形もありません。


新たに提案した“自然剥奪症候群”

 翌日には、口頭発表を行い、皮切りに武田園長が東日本大震災と津波、それが核発電所を襲った惨状を紹介しました。
 引き続き、南相馬市の遠藤園長が登壇し、長く外遊びの制限を受けた子どもたちが、ついには「虫を怖がる」、「土に触れるのを嫌がる」という姿を映像と共に口頭発表しました。
 スライドで示した「子どもたちは先生の言いつけ通り虫(ミミズ)を決して触りません。指でさすだけで、廻りの子も手を引っ込めながら見る癖が付いてしまいました。」と話しました。

ミミズを触れずに指さす園児

ミミズを触れずに指さす園児

  

 こうしたスライドがでるたびに会場がざわつき、ため息が漏れました。
 まとめとして、小松園長から、このような子どもの姿を私たちは「自然剥奪症候群」と新たに命名したことを伝えました。
 そして、産まれたときから自然とつながれなくなった子どもが今後の発達に影を落とす可能性にも触れました。

日本の一隅での体験を世界に伝える
 私たちの発表が終わると同時に満場からの拍手が湧き、会場を辞する私たちに駆け寄り、イギリスなどヨーロッパの国々の聴衆から口々に驚きや義憤が語られました。
 発表後も呼び止められてドイツ、フィンランド、ノルウエー、スウェーデン、など多くの人が「子どもたちの映像を見て胸が締め付けられる」、「こんな汚染を子どもにもたらしてはならない」、と感想を述べてくれました。
 また、韓国の人からは中国から流れてくる大気汚染で子どもが外に出られない日がつづいた例などを挙げ、福島の問題は他人ごとでないと語りました。
 チェルノブイリの実体験を持つ欧州からの問いかけは鋭く、自然剥奪症候群はチェルノブイリでも見られたのか、ちかごろの子どもたちが自然と触れ合う機会が減っていることと、我々が提案した自然剥奪症候群の違いは何かを問うものでした。テレビやゲーム漬けで自然と接しないのとは異なり、電力企業とそれを進めてきた国が子どもから自然を奪ったからこそ“剥奪”症候群と名づけたと応えると、深くうなずいていました。
 研究方向についての示唆を含む実り多い対話を得て、はるばる欧州まで報告しに来た甲斐があったと、一同で喜ぶとともに、身のひき締まる思いでした。

ドイツ国民の核発電廃止へのうねり
 また「日本は再生可能エネルギーへの転換は図られているのか」との質問もありました。停止していた核発電所が次々と再稼働している現状を話すと顔を曇らせていました。
 特にドイツでは国民的な世論で核発電所の全面廃止を勝ち取ったことや、隣国オーストリアの核発電を止めるドイツ国民の活動がオーストリアの政府を追いつめ、核発電所廃止に政策変更させた経験を述べてくれました。
 Sam先生は発表から質疑応答、そして会場内外で多くの国々と交わした深い討論を支えてくれました。

保育士は子どもの利益の代弁者(全国保育士会倫理綱領
 旅客機から見下ろすとクロアチアの首都ザグレブを流れるサヴァ川の水面が輝いていました。その両岸に深い森を連れてゆったりと蛇行しながら下っていきます。 
 本来の川の領分を土手で挟みこまれた日本の河川が可哀相に思えました。
 私たち保育者は放射能汚染下で子どもに向かって「触らない」、「外に出ない」、と禁止することで対処して来ました。子どもたちはけなげにも素直に自然に触れないで育ってしまいました。それなのに私たちは、この汚染の元を作った大人たちを不問に付したままでいいのでしょうか。
 上から降りてきた「保育所保育指針」ではなくて、2003年に保育士たち自身の手で「全国保育士会倫理綱領」が作られました。そこには「子どもの最善の利益を第一に考え」、「子どものニーズを受けとめ、子どもの立場に立ってそれを代弁します。」とあります。
 川が水本来の特性で流れるように、子どもが理不尽な強制を受けずに育つことができるように、改めて子どもたちの利益を守る代弁者でありたいと思います。
 一旦事故が起これば制禦不能な核発電がもたらした放射能汚染が子どもから自然を奪う理不尽な出来事をこの地球で二度と繰り返すことがないようにと、改めて決意した国際大会でした。

口頭発表でまとめを話す小松園長と進行役を務めるSam先生

口頭発表でまとめを話す小松園長と進行役を務めるSam先生

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